Dentsu Space Lab

宇宙から考える、食の未来(後編)

もしも宇宙旅行が身近になって宇宙で暮らせる日がきたら、宇宙食はどうなるのでしょう? 前編ではOPEN MEALSの榊(さかき)さんに、フードプリンターを使って寿司を宇宙で食べられる構想など、未来の食についてお話を聞きました。

後編では、未来を先取りするようなアイデアをどのように考えているのか、語ってもらいます。

3未来を示し、産業を生み出す

OPEN MEALSのミッションは壮大ですね。食や味覚をデータ化して、新しい食の文化をつくる。同時に、収益を上げる必要もある。また、読んで興奮してしまったのですが、2100年までの食の未来を描いたレポートまでつくっている。

OPEN MEALSは、どこを目指しているんでしょうか?

榊:全部ですね。

-全部、ですか……!

榊:全部じゃないと面白くないじゃないですか。何かしらの地球の課題を解決しないとやる意味はないし、それがサステナブルに続くためにビジネスになってないといけない。それが拡張するってことは、新たな文化になっていくはずです。そういう意味では、全部じゃないですか。

-でも、夢が大きいほど、実現するのは難しいんじゃないでしょうか。

榊:OPEN MEALSの活動は商品開発ではなく、未来を示すことなんです。専門家への取材やリサーチを通じて情報を集め、それらをワクワクする未来に編集してイメージ化する。そして、未来の構想として世の中に発信するんです。

「超未来寿司屋」のメニューのコンセプトモデル

-なるほど。商品を大量生産して売るのではなく、未来を示すのが目的だと。

榊:はい。先に、ビジョンを共有する方がいいんじゃないかと考えています。

フードテックには様々な取り組みがあります。それを点ではなく面として見せることで、より多くの人に知ってもらい、体験してもらうことができる。そうすれば「食の未来って面白いね」ってなると思うんです。そこからニーズが生まれてフードテック産業自体が拡張し、プレイヤーたちの間にシナジーが生まれていくんですよ。

-あぁー、それで分かりました! 今までの壮大なヴィジョンやイメージは、ワクワクする未来を見せるためだったんですね。そこからニーズを生み出し、仲間を集めていく。

榊:その通り。「この技術は、僕らの生活をこんなにも豊かにしてくれるんだ」と分かって初めて市場が生まれ、産業になっていくんです。超未来寿司屋も、単に面白イベントとしての成功ではなく、フードテック界が次のフェーズに行くための場としてすごく重要だなと思っています。

-「未来ってこんなじゃない?」と、映像やイメージでノンバーバルに世界に見せる。そして人々の想像力を刺激して、一緒に未来を引き寄せるんですね。お話、ありがとうございました。

4地に足のついた妄想

宇宙旅行の本格化を見すえて、OPEN MEALSをはじめとしたフードテックの活動が活発化しています。そんな中、宇宙食には娯楽や、多様性が求められています。

この機能性から嗜好性へのシフトは、「食事」だけでなく「ファッション」などの他分野にも浸透していくでしょう。その流れは既に起きています。例えば『ヨウジヤマモト』と『アディダス』のコラボによる『Y-3』が宇宙服を手がけるなど、宇宙業界に新たな風が吹きこんでいます。

つまり宇宙業界への民間企業の参入や、B2BからB2Cへのシフトが分野を問わず加速していきます。ホテル、交通、エンタメ、家具……。OPEN MEALSはその象徴的事例です。

ではここで、記事を読む手を休めて想像してみてください。2040年、もしもあなたの会社が宇宙に進出しているとしたら、何をしているでしょうか。

あなたなら、何から考えますか? OPEN MEALSの企画の立て方が参考になります。

まずは、未来を自由に想像します。例えば2040年、月に1000人が移住しているとします。一体どんな顔ぶれが集まっているのでしょう? 国の代表なのか。どんなミッションを携えているのか。男女比や年齢は。正解は、一つではありません。宇宙映画や漫画を見て、アイデアをふくらませるのもよいでしょう。そしてその世界で、あなたのサービスがどう活用されているのか、考えをめぐらすのです。

次に、その頭の中のイメージを専門家にぶつけて、想像の強度を高めます。実現可能性を、科学や経済など様々な視点から点検するのです。その上で未来を端的に表す絵を描けば、「未来のあなたのサービス像」のできあがりです。

OPEN MEALSの考えるフード・デザイン・アプリケーション。
デジタル上で食をデザインするという未来を打ち出している

このように、自由な想像と専門家による検証を合わせて、地に足のついた妄想をするのがOPEN MEALSの発想法です。本記事で紹介した数々の「食の未来」のアイデアは、このような方法で生まれました。

過去ではなく、未来から考える。課題を解決するのではなく、需要を開発する。宇宙に関わる人はもちろん、様々な新規事業に携わる人にも参考になる考え方ではないでしょうか。

取材協力:榊良祐
編集:東成樹