種子島から12月9日(金)にロケットが飛び立ちます。大型バスサイズの無人補給機「こうのとり」を載せて、国際宇宙ステーションを目指します。補給機には食べ物や衣服の他に7基の人工衛星が相乗りし、宇宙空間まで運ばれて各ミッションを果たします。東大の研究室やローマの宇宙開発会社など、先端技術が勢ぞろいの本打ち上げ。7人の開発者から宇宙ラボ読者へ、自作の人工衛星について語って頂きました。
宇宙の面白さに気付いて欲しい。このような思いで人工衛星を開発する、筑波大学システム情報系の亀田敏弘(としひろ)准教授に取材しました。5年前から学生とともに衛星開発を始めています。
開発のきっかけは? また、その経験を生かしてたちあげた株式会社ワープスペースとは。これらの答えからは一貫して、宇宙好きの人材を育てたいという思いが読み取れます。亀田先生に語って頂きました。
ITF-2(提供:「結」プロジェクト)
衛星開発の経験から「ワープスペース」をたちあげ
初めに、本打ち上げの目的を教えて下さい。
亀田:衛星の信号を受信した共有体験を持つ人々を結びつけて、宇宙に興味のある人々の地球規模のネットワークを作ること、がメインミッション(「結」(ゆい)ミッション)です。その他にも2つの技術ミッションがあります。
一般人が衛星から自由に受信できる「結」ネットワークをつくるのですね。
どんな人工衛星を打ち上げますか。
亀田:1Uサイズのキューブサットと呼ばれる、1辺10cm の立方体形状の人工衛星です。
名前のITFは、筑波大学の理念“IMAGINE THE FUTURE”からきていますか。
亀田:その通りです。
2011年のITF-1から開発を始めたそうですね。作ろうと思ったきっかけは何でしょうか?
亀田:当時の筑波大学の宇宙系の教員を中心に、学生が熱意を持って実際に手を動かして取り組める教育の場として、衛星プロジェクトを始めようという機運が高まり、亀田を実施責任者として、衛星プロジェクトを始めました。プロジェクトにおける様々な個性を許容できるチームワークを重視しているので、開始当時から現在までずっと、筑波大学生であれば、学部学科を問わずプロジェクトの門戸を開いています。私自身は小学生の頃から常に何かをちょこちょこと作っており、工学系を目指す学生には特に実際に手を動かしてモノをつくる経験を少しでも多く持ってほしいと考えていましたので、率先して実施責任者を引き受けました。
おっしゃる通りで、様々な専門の学生が参加しています。なかなか全員で集まる時間が少ないのではないでしょうか。先生、学生はどのように開発を進めましたか?
亀田:基本的に衛星開発は搭載モジュール毎の「系」という単位にて分業で行っています。全員で集まるのは週一回、3時間程度です。基本的に学生メンバは夕方以降の講義のない時間帯や休日に衛星開発に取り組んできました。全体計画に基づいて「系」ごとの計画が定まりますので、通常は「系」単位で作業の進捗状況や、直面している問題などについて議論が行われながら衛星が作られていきます。行き詰ったり、解法に窮すると、私たち教員も一緒になって知恵を出したり、JAXAの方々に相談したりということで切り抜けてきました。
メンバーたち。左が亀田先生(提供:「結」プロジェクト)
プロジェクト概要によると、「電源系」「熱系」「姿勢制御系」など系に分かれていますね。
今、一番のハードルは何ですか?
亀田:宇宙では何が起こるかわかりませんので、ISS(国際宇宙ステーション)から放出された衛星が、きちんと動作してくれることです。もちろん、様々なテストをクリアしていますが、結果を見るまではやはり安心できません。
亀田先生は筑波大学発ベンチャーとして、身近に宇宙を楽しめる世界を目指す「ワープスペース」という会社をたちあげました。どんなお客さんを想定しているか、例を挙げて教えて頂けますか?
亀田:これまで、学会などの場で、人工衛星開発にチャレンジしたくても、資金難や情報不足が理由でなかなか思うようにいかないという事例を耳にしてきましたので、そうした方々のお役に立てればと思います。衛星数が増えることで衛星管制局のニーズも増えてきますので、そうした分野でもお役に立てると思います。存分に学生と一緒に手を動かして衛星を開発してきたので、衛星開発と運用の相談窓口となり、ベストなソリューションを提示できるような会社に育てていきたいと考えています。
人工衛星は今JAXAの手にわたり、ロケットの打ち上げを待つばかりです。今後の夢を教えて下さい。
亀田:何よりもまず衛星が想定通りに動作して、「結」ネットワークが作られていくことだと思います。理工系離れという言葉を良く耳にしますが、一人でも多くの子供たちが人工衛星や宇宙に興味を持ち、科学技術の面白さに気づいて、次世代を牽引してくれることを願っています。大学と会社の双方から、子供たちが生き生きと活躍できる未来の社会を創造したいと考えています。個人レベルで宇宙利用方法を考案できたりすると面白そうですね。
宇宙好きを育てる
亀田先生の回答から、宇宙好きを育てたいという思いが一貫して伝わってきました。「モノをつくる経験を少しでも多く持ってほしい」と衛星プロジェクトを開始。ITF-2のミッションでは一般の人が衛星からデータを受信できるようにして、宇宙へ興味を持てるようにしました。
たちあげたワープスペースは、衛星開発にチャレンジしたい人への相談窓口になるといいます。開発者の支援に学生との衛星作りの体験を生かすことで、宇宙開発に挑戦できる環境を整えようとされています。
先日「おおたオープンファクトリー」というイベントで大田区の町工場を見学しました。町工場と聞くと、あなたはどんなイメージを持ちますか? 私が見た工場は清潔で、自分より二回り以上大きな機械が金属を彫っていました。パネルに数字を打ち込めば、作動するのです。
スタッフによると町工場では汗水たらすというイメージがあるからか、若いエンジニアが入りにくいのが問題だそうです。メカに強い日本人があまり入らない一方で、ある工場では10年前に来日したベトナムの男性が工場長を務めていました。1000人中数人しか通らない試験に受かったそうで、今はエンジニアの技能を生かしています。
理工系の人材を育てるのは大切で、亀田先生のように人工衛星開発の環境を整えるのは有効な手段だと思います。機器の低コスト化で、人工衛星は教育にも使えるようになりました。連載一回目で見たように、ブラジルでは中学生が人工衛星を作れます。
この連載では、中学生が分かるようにかみくだいて説明してきました。7基の人工衛星の開発者、それぞれが制作に関する最先端知識を教えて下さいました。この記事の読者が一人でも「宇宙って面白い。もっと知りたい」と思ってもらえたら嬉しいです。
東成樹