種子島から12月9日(金)にロケットが飛び立ちます。大型バスサイズの無人補給機「こうのとり」を載せて、国際宇宙ステーションを目指します。補給機には食べ物や衣服の他に7基の人工衛星が相乗りし、宇宙空間まで運ばれて各ミッションを果たします。東大の研究室やローマの宇宙開発会社など、先端技術が勢ぞろいの本打ち上げ。7人の開発者から宇宙ラボ読者へ、自作の人工衛星について語って頂きました。
この連載ではキューブサットの開発者に取材しています。キューブサットとはリンゴがすっぽり入るほどのキューブ型の人工衛星を指し、ここにアンテナや太陽光発電パネルなどを全て組み込みます。実は、2003年に世界で初めてキューブサットの打ち上げを成功させたのは、東京大学と東京工業大学の学生でした。(川島レイ氏の『キューブサット物語』に詳しいです。)
今回ご紹介するAOBA-VELOXⅢ(アオバ-ヴェロックススリー)(以降、あおばと略します)も、九州工業大学の学生主体のチーム。50名ほどで開発を行っています。シンガポールの南洋理工大と組んで、開発を進めてきました。二大学の関わりはどう始まったのでしょう。また、学生たちが進めている研究は? プロジェクトマネージャーの村上弥生さん(大学院1年生)に語って頂きました。
AOBA-VELOXⅢ(提供:九州工業大学)
学生中心に人工衛星を作る
まずは、本打ち上げの目的を教えて下さい。以下の2つだと理解しているのですが、改めて村上さんの言葉でお教え下さい。
1プラズマを噴射して機体を進めるPPT(パルスプラズマスラスタ)が、宇宙空間で作動するかの実験。
2マイコン(半導体チップのこと)に宇宙放射線が通ると誤作動が起こる。これをシングルイベントと呼ぶ。防ぐためにどうすればよいかを実験。
マイコンを搭載したミッション基盤(©九州工業大学)
村上:本衛星は学部生主体で衛星開発を行う初めてのプロジェクトです。そのため、学部生主体のプロジェクトとしての基礎を作るのがまず1つ目の目的です。技術的な目的としてはPPTの軌道上での作動試験とマイコン(制御素子)の放射線耐久試験です。PPTを軌道上で実証することで、今後の小型衛星の軌道遷移や姿勢制御を可能とします。マイコン放射線耐久試験では宇宙環境にマイコンを曝露することでどのマイコンの放射線耐性が強いか、またマイコン外面にタングステンシートを貼ることで放射線遮蔽効果が表れるかなどを調べることができます。
フライト組立(提供:九州工業大学)
あおばはどのような人工衛星ですか?
村上:10cm立方を1Uという大きさとして、本衛星は2Uの形をしています。質量は約2.5kgです。今まで九州工業大学で打ち上げてきた衛星はロケットの相乗りにより打ち上がってきましたが、本衛星は国際宇宙ステーション(ISS)から放出されます。軌道上にいる期間は約200日で、その間に上記のミッションをおこないます。
2006年に衛星開発プロジェクトが立ち上がったそうですね。始まりのきっかけは何でしたか?
村上:九州工業大学100周年を記念して「鳳龍1号」という1Uサイズの衛星の開発を開始したことがきっかけです。
50名ほどの大勢の学生メンバーが継続して活動するために、何をしていますか。
村上:週に1度ミーティングを行い連絡事項や現在の問題点に関して議論を行いました。そこで全体のスケジュールを確認したり、各系の進捗についての確認と、その週の予定をきき、毎回予定が達成されているかなどを確認しました。開発は主担当のみならず、下級生の勉強も兼ねて行いました。
シンガポールの南洋理工大学との関わりは、どのように始まりましたか? 今はどのように共同研究を続けていますか。
村上:九州工業大学の趙教授が南洋理工大学の客員教授に選任され、同学で宇宙工学の教鞭をとられていた教授との話し合いにより始まりました。今後も本衛星以外の超小型衛星の共同開発を行っていく予定です。
南洋理工大学との実験(提供:九州工業大学)
今、一番のハードルは何ですか?
村上:放出後の初期運用です。地上での試験は行ってきましたが、宇宙に行くと地上試験とは環境が異なるのでやはり心配が残ります。現在は運用を成功させるためにも、衛星と通信を行う地上局を実際に使用して運用の予行練習を行っております。
人工衛星は今JAXAの手にわたり、ロケットの打ち上げを待つばかりです。今後の夢を教えて下さい。
村上:今後は宇宙上での初期運用が成功し、PPTやマイコン放射線耐久試験のデータが多種多様に得られることを祈っています。
あおば引渡し前の集合写真(提供:九州工業大学)
宇宙開発に国境はない
シンガポールの南洋理工大学との結びつきができたのは、九州工業大学の趙教授が客員教授になったからでした。国を越えてプロジェクトが動き出す時、国と国を結ぶハブになる人が大事だと学べます。
大学院工学研究院の趙孟佑(ちょうめんう)先生の研究室は、学生46人中25人が留学生と半数以上を占めています。(参考:福岡)国際色豊かな人工衛星開発、九工大の趙研究室)また、同大学では様々な国の学生が人工衛星を作る「バーズプロジェクト」が行われています。(参考:進行中 6カ国で人工衛星計画 九工大院生や留学生 17年度中打ち上げ目指す/福岡)大学院宇宙工学国際コースの日本、ガーナ、モンゴル、バングラデシュ、ナイジュリア、タイの15人が、協力して衛星を作っているそうです。記事から引用すると
会見した趙教授は「ガーナ、モンゴル、バングラデシュの3国は国として初めて人工衛星の製作に関わることになる。帰国した学生らが母国の宇宙教育・研究に携わることがプロジェクトの最大の狙いだ」と話した。
とあり、国を横断した宇宙人材を九州工業大学が育てていることが分かります。
これまで、宇宙開発はアメリカとロシアが中心でした。けれども以上の顔ぶれをみるとアジア・アフリカの国々でも開発が進んでいることが分かります。日本の大学が、人工衛星を中心として開発をリードして欲しいと思います。特に日本の実験棟「きぼう」は国際宇宙ステーションで唯一、キューブサットが放出できる場所なので、人工衛星の技術で他国を引っ張る存在になるチャンスだと考えます。
東成樹