種子島から12月9日(金)にロケットが飛び立ちます。大型バスサイズの無人補給機「こうのとり」を載せて、国際宇宙ステーションを目指します。補給機には食べ物や衣服の他に7基の人工衛星が相乗りし、宇宙空間まで運ばれて各ミッションを果たします。東大の研究室やローマの宇宙開発会社など、先端技術が勢ぞろいの本打ち上げ。7人の開発者から宇宙ラボ読者へ、自作の人工衛星について語って頂きました。
海の中で風呂敷をしわなく広げるには?
今回、取材した早稲田大学宮下研究室では、宇宙空間で円形の膜(下図)を展開するそうです。
図1:膜(展開時)
無重力状態では、膜を一様に開くだけでも大変な挑戦です。やわらかければしわがつく。固すぎれば開きにくい。またこの直径70センチの膜を、一辺10センチのキューブ型人工衛星(「キューブサット」と呼びます)に収めるのにも高い技術が必要です。
今回打ち上げられるWASEDA-SAT3のプロジェクト・マネージャー、吉田裕紀(院2年生)さんにミッションについて語ってもらいました。
宇宙で70センチの膜を広げるには?
まずは、今回の打ち上げの目的を教えて下さい。大きく分けて、4つあるそうですね。
吉田:1) らせん折りした膜面を展開します。
超小型人工衛星は限られた小さな空間に基盤等を搭載するためスペースを有効に利用する必要があります。曲面らせん折りによる膜面を搭載することで、大きな構造物でも小型衛星に搭載してミッションが可能であることを実証できると考えております。
2) この膜に画像を投影し、膜面の形を計測します。
図は展開後の膜面と衛星の様子を示しております。展開した膜面に対して衛星内部に取り付けてあるプロジェクタから画像を投影して、その画像をカメラによって撮影します。撮影したデータを地上へ電波で送り、画像のひずみを測定することで膜面の面精度の測定を行います。将来的には、精度の高い構造物としての利用を考えます。
図2:衛星の膜面および伸展マストの展開図
3) 膜が空気抵抗を受けることで、軌道を下げます。
展開させた膜面をドラッグシュートとして用いることで、デオービットさせるシステムの実証を行います。衛星を投入するために必要なエネルギーが少ない低軌道は少なからずデブリでの混雑化が進みつつあるため、シンプルかつ低コストで軌道を外すシステムの搭載は宇宙開発のためにも必要であることが理由として挙げられます。
「ドラッグシュート」は、空気抵抗を利用したブレーキのことですね。地球と距離が近い「低軌道」には人工衛星が多く、ぶつかると事故になる。そこで使用期間が過ぎてゴミ(デブリ)になった衛星が自ら軌道を外し(デオービット)、大気圏に高速で突入して燃えるようにすることで、デブリがたまらないようにするわけですね。(同じくデオービットに挑むのが、中島田鉄工所のFREEDOMです。)
最後に、4点目は何ですか。
吉田:4) 液晶パネルの色を変化させ、温度を調整します。
液晶パネル(以下LCDという)の表示色を変化(白と黒)させて太陽光吸収率を制御することで熱制御をすることを目的としています。今回行うLCDによる熱制御方式は従来と異なり省電力かつ省スペースでアクティブな熱制御を実現することが可能です。
図3:液晶パネルの写真
この中で最も重要なプロジェクトは?
吉田:2番の膜面の形状計測が最も重要なミッションとなります。基本的には膜面に関するミッションが重要なミッションと位置付けております。膜面の形状予測が成功できれば、膜面がきちんと展開をしていることになりますので、1番と3番も同時に達成できることとなります。したがって、プロジェクトとしては膜面の形状予測が一番のミッションとなります。
膜面は超弾性ワイヤ・形状記憶合金で、らせん折りをしているそうですね。大きさ、重さ、どんな素材かを教えて頂けますか。
吉田:大きさは直径70[cm]、重さおよそ40[g]、素材はアルミを蒸着させたポリイミドフィルムを使用しております。
「ポリイミドフィルム」は、800度以上でなければ炭化を始めないなど優れた特性を持つ素材ですね。この膜を、宇宙空間でどのように展開させますか。
吉田:図4は衛星の外観図になります。この図の右側が膜面を収納している部分の図となります。膜面は2本のテグス(Double Strings each)によって拘束されております。このテグスをニクロム線に接触させた状態で、ミッション開始時にニクロム線に電流を流すとニクロム線の熱でテグスが溶断されます。この溶断によって伸展マストと膜面の拘束が解かれることとなります。
図4:衛星の外観図
下記の図5の通りに伸展マストと膜面が収納されており、膜面は円筒部に収納して展開しないようになっています。溶断によって拘束が解かれると伸展マストが膜面を押し上げることで膜面が飛び出し展開を開始します。膜面は図6のように折られており、右側から順に展開をします。
図5:膜面の収納状態
図6:曲面らせん折り膜面の収納過程(紙モデル)
畳んだ箇所を展開する時、折れ曲がりませんか?
吉田:展開に関しては、地上での展開試験を行っており、折り畳み箇所で折れ曲がることは少ないと考えておりますが、宇宙空間での実証は今回のミッションにも含まれているためこの機会に宇宙空間でも折れ曲がらないことを確認したいと考えております。
宇宙空間では太陽光にさらされた部分は100度以上に、影の部分はマイナス100度以下になると聞きます。この膜は温度変化に耐えられるでしょうか。
吉田:膜面の素材に関しては、前述の通りポリイミドフィルムを使用しております。このフィルムは宇宙空間での使用実績があり有用性が示されているため、問題がないと考えております。
膜は展開後、折り畳みますか。
吉田:収縮はさせません。折り方が複雑なため宇宙空間で収納させることは考えておりません。
このWASEDA-SAT3は複数の研究室や企業の協力で進められています。どのように役割分担をしていますか。
吉田:宮下研究室の学生を中心にプロジェクトを進めてきました。実験設備一部は企業の設備をお借りしました。
今、一番のハードルは何ですか?
吉田:通信基地設備の構築です。ミッションの一つである衛星との通信を成功させるために、現在も基地整備に取り組んでいます。
400キロメートル上空から電波を受信するため、通信基地を準備しているのですね。人工衛星は今JAXAの手にわたり、ロケットの打ち上げを待つばかりです。最後に、今後の夢を教えて下さい。
吉田:今は打ち上げ後の衛星ミッションがうまくいくことが一番だと思います。この衛星によって実証されたことが次の衛星やほかの分野に広く活用されればと思っています。
日本には豊かな宇宙人材がいる
「らせん折りした膜面の展開」と、文字にすれば二秒で読めます。しかし、地上400キロメートルを毎秒8キロ進む国際宇宙ステーションにロケットで人工衛星を届け、日本の宇宙実験棟「きぼう」から放出して宇宙空間で「らせん折りした膜面の展開」をせよ、と言うと難題だと分かります。空気のない中で折り目なく展開した上、遠隔操作で画像を投影し、撮影して400キロメートル離れた地上へデータを送信しなければならないのですから、難度はさらに上がります。
これら難題に学生が取り組んでいるのか、と驚きました。WASEDA-SAT3のメンバーを見れば、宇宙開発系のOBとのつながりが大事だと分かります。
世界で初めてのキューブサット打ち上げは2003年。東京大学と東京工業大学の学生による快挙でした。この間に日本の宇宙人材は育っています。宇宙人材の仕事を分かりやすく広め、宇宙開発の面白さを初心者にも分かるよう、伝えるお手伝いができたら嬉しいです。
東成樹