種子島から12月9日(金)にロケットが飛び立ちます。大型バスサイズの無人補給機「こうのとり」を載せて、国際宇宙ステーションを目指します。補給機には食べ物や衣服の他に7基の人工衛星が相乗りし、宇宙空間まで運ばれて各ミッションを果たします。東大の研究室やローマの宇宙開発会社など、先端技術が勢ぞろいの本打ち上げ。7人の開発者から宇宙ラボ読者へ、自作の人工衛星について語って頂きました。
地球の周りには燃料の尽きた衛星やロケットの残骸などが回っていて、10センチ以上のものは約2万個もあると言われています。これをスペースデブリ(デブリは破片という意味)、または宇宙ゴミと呼びます。速さは新幹線の100倍もあり、衝突の危険を避けるために軌道から外すことが課題になっています。
今回取材したのは1911年創設の中島田鉄工所。日本初の国産ヘッダーを作りました。ヘッダーとは金属線を切り、その頭(ヘッド)をつぶしてねじを形作る機械のこと。一見、宇宙とかけ離れたこの会社がスペースデブリを減らす人工衛星に取り組んでいるといいます。製造過程や今後の夢を、品質管理部工程管理課の金子哲也さんに語って頂きました。
ねじの会社が宇宙に挑む
今回打ち上げる“FREEDOM(フリーダム)”
まずは、本打ち上げの目的を教えて下さい。
金子:2010年より東北大学と共同で開発を進めている薄膜展開式軌道離脱装置“DOM(ドム)”の宇宙空間での動作の実証が目的です。「軌道」とは、いわば高速道路のようなもので、今後過密状態になればそこに渋滞や事故が起き始めるため、新たに人工衛星を打ち上げできなくなる恐れが出てきます。それを防ぐため、今後は役目を終えた人工衛星をこの軌道から離脱させていくことが求められています。宇宙とはいえ、地球近傍には僅かに大気が存在します。この僅かな大気の中で、膜を大きく広げると空気抵抗を受けます。その結果、人工衛星を減速させることができると考えています。減速した人工衛星は地球の重力に引っ張られるため、自然と軌道から外れることになり、最終的には大気圏内突入し消滅します。
実はこのDOMの試作機はすでに他の人工衛星に取り付けられ打ち上げられています。しかしそのDOMが取り付けられた人工衛星そのものがまだまだ運用中ですので、すでに宇宙空間にあるDOMの実際の出番は数年後になります。
そこで、「一日でも早く宇宙で実際に機能するかどうかを確認したい」という思いから「まずはDOM単体で宇宙空間に放出し、膜の展開と軌道離脱を実証できないか」ということになりました。世界に先駆けた軌道離脱手段を確立するために、そしてこれからも自信を持って開発を継続するために、早期の実地検証が必要だと考えたわけです。
中島田鉄工所と東北大学が開発する軌道離脱装置DOM1500
どんな人工衛星を打ち上げますか。
金子:今回のプロジェクトで開発した人工衛星の名前は“FREEDOM(フリーダム)”といいます。大きさは約10×10×10cmサイズ。重さ約1.3kg。1UのCubeSatです。H-2Bロケットで打ち上げられ、国際宇宙ステーションに運ばれます。その後国際宇宙ステーションの「きぼう」日本実験棟より放出されます。
通常、人工衛星はカメラや通信機器を実装し地球観測や通信試験などを役目(ミッション)としているので、なるべく長期間軌道を周回することを望みます。しかしFREEDOMのミッションはDOMの展開実験と軌道遷移情報を蓄積することですので、国際宇宙ステーションから宇宙空間に放出後すぐに周回軌道を離脱し大気圏突入を目指します。
「落とすためにはるばる宇宙空間まで持っていく」という、ある意味で少々刹那的なプロジェクトです(笑)。
今回打ち上げる超小型人工衛星FREEDOMのフライトモデル
FREEDOMの展開実験
中島田鉄工所は、ねじなどの金属パーツを作るプレス機械のメーカーです。全く違う分野に挑戦しようと考えたのはどうしてですか。
金子:実は弊社が自発的に始めたことではありません。弊社会長が、将来を見据えて何か新しいことを模索していかなければならないという思いから、十数年前に九州で航空宇宙に関する勉強会に参加したのがきっかけです。その勉強会で九州大学から人工衛星部品の加工のご依頼を頂き、当時九州大学の学生でいらっしゃった現東北大学准教授の桒原(くわはら)先生との出会いがありました。すでに十数年前の話ですが、それから今まで継続的にお付き合いをさせて頂きながら、夢や目標を徐々に共有してきた、というのが事実です。
その時、一番のハードルは何でしたか?
金子:今に至るまで、宇宙に関しては見ること聞くこと全てがまだまだ未知の世界です。また、これまでの弊社の本業とはあまりに分野が違うため、社内でも意識が完全に浸透するには至っていません。しかし、だからこそ挑戦しがいのある分野だと思っています。
まずは小規模でも利益を生み出せる事業にすることが最大のハードルです。
中島田鉄工所の技術力は、FREEDOMの部品作りにどう生かされているでしょうか。
金子:FREEDOMでは構造解析や振動試験、環境試験を始め、非常に詳細な部分まで完璧を目指します。例えばFREEDOMには電力源として信頼性のある市販の充電式単三電池4本を使用していますが、通常使用では支障のないほどの微小な個体差があります。個々の個体差を見極めるために充放電を繰り返し、特性を見極め確実に安定して機能する個体4本を選抜しました。これは東北大の学生の方が担当しましたが、検証方法やアプローチがとてもすばらしく大変勉強になりました。当社のこれまでのものづくりの経験がこのFREEDOMの製作にも生きていますが、むしろ勉強になることがとても多いです。
FREEDOM振動試験の様子
宇宙ゴミを減らすために、どんな活動をされていますか?
金子:金子:中小企業が人工衛星を打ち上げるということで特に最近では講演や取材の機会をいただきます。私たちもDOMがきっかけで宇宙ゴミ問題を知ることができたように、私たちの講演がきっかけで宇宙ゴミ問題を多くの方に知っていただけるように微力ながら貢献できればと思っています。また地元の小学校でも講演をしましたが、子供たちには身近に宇宙を感じてもらい興味をもってもらうことで将来の人材育成にも貢献できればと思います。
人工衛星は今JAXAの手にわたり、ロケットの打ち上げを待つばかりです。今後の夢を教えて下さい。
金子:まずは12月9日の打ち上げ、その後のFREEDOM放出、膜展開と軌道離脱の一連の成功を願うばかりです。最終的にはこのDOMが軌道離脱手段としてのデファクトスタンダード的な存在になればと思います。
このプロジェクトは、今はまだ当社の本業であるプレス機械の製造販売の収益を原資としています。また、加工や表面処理などはいろいろな協力企業のご厚意に支えられてきました。今後は宇宙事業を事業として成立させ、皆様に恩返ししていきたいと思います。
FREEDOMの開発メンバー 左から宇戸(開発責任者)、畑村、金子
日曜大工で、人工衛星を作る日がくるかもしれない
れからキューブサットのような超小型人工衛星の開発はどんどん安くなり、身近になっていくと思います。#1の記事で触れたように、ブラジルの中学生が開発した人工衛星が打ち上がるのですから。
現在人工衛星のキットは、打ち上げ費込で80万円ほどです。これから量産されコストが落ちて数万円になれば、親がゲーム機を買うように家庭用人工衛星を買う日がくるかもしれません。
そのためには金子さんが言われるように「まずは小規模でも利益を生み出せる事業にすること」が第一のハードルで、投資家の協力や企業協賛が大事だと思います。同時に横のつながりも大切で、たった一つ製品が売れただけで部品・加工・表面処理などの企業にお金が入ることになります。金子さんはDOMを様々な小型衛星に搭載していきたいと考えているそうです。この記事を読んでいる開発者さんがいらしたら、相談してみると良いかもしれません。
東成樹