種子島から12月9日(金)にロケットが飛び立ちます。大型バスサイズの無人補給機「こうのとり」を載せて、国際宇宙ステーションを目指します。補給機には食べ物や衣服の他に7基の人工衛星が相乗りし、宇宙空間まで運ばれて各ミッションを果たします。東大の研究室やローマの宇宙開発会社など、先端技術が勢ぞろいの本打ち上げ。7人の開発者から宇宙ラボ読者へ、自作の人工衛星について語って頂きました。
本記事では取材に入る前に、人工衛星打ち上げの基礎知識をご紹介します。まず、人工衛星とは何でしょうか? ここでは、惑星の周りを回る「人工」的につくられた星とします。例えば、私たちの頭上400キロメートルの軌道を回る国際宇宙ステーション(ISS)は「人工衛星」です。
国際宇宙ステーション(©JAXA/NASA)
人工衛星は、すごいスピードで地球を回っています。放っておくと地球に落ちてきてしまうため、地球の周りをぐるりと回る遠心力で、落ちずに回り続けています。しかし重力に逆らい、人工衛星を数百キロの高さまで打ち上げるには費用がかかります。そこで、打ち上がるロケットの空きスペースについでに載せてもらうことを相乗り(ピギーバック)と呼びます。
12月9日(金)、種子島からH-IIAロケットが打ち上げられます。ここに相乗りするのが7基の超小型人工衛星です。この超小型衛星の基本単位は一辺10センチの立方体で「キューブサット」と呼びます。りんごが一つ入るサイズです。他にチューブ型の「チューブサット」もあり、これはキューブサットの中にぴったり収まるサイズです。
ロケットに積まれたキューブサットは、ロケットからいつ宇宙へ出るのでしょうか? 今回は国際宇宙ステーションに届けられます。そして、日本の実験棟「きぼう」から放出され、地球の周りを回り始めます。高速で回る宇宙ステーションから正しい角度で放出するために、J-SSOD(JEM搭載小型衛星放出機構)を用います。これはキューブサットがぴったり収まるケースで、内部のばねによりキューブサットたちを打ち出します。
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搭載予定の小型衛星放出機構(J-SSOD) 。この中に人工衛星が入る(©JAXA)
超小型衛星「TuPOD」。上記のJ-SSODにぴったりはまる(©JAXA)
超小型衛星の放出(©JAXA/NASA)
今回取材したGAUSS Srlは筒形のチューブサットを入れるケース、TuPODをつくりました。ブラジルとアメリカでそれぞれ作られた、二つのチューブサットをぴったりと収めます。これまで、きぼうからチューブサットの放出はできませんでした。放出機が立方体のキューブサットの規格にのみ対応していて、サイズが合わなかったためです。しかし、キューブサットを組み合わせたサイズのTuPODなら、打ち出すことが可能です。放出機のJ-SSODに四角いTuPODを入れ、TuPODの中に筒形のチューブサットが入る、という仕組みです。製作するのはイタリアのローマにあるGAUSS Srl(Group of Astrodynamics for the Use of Space Systems)。小型衛星の放出や製作を得意としています。
エンジニアのリカード(Riccardo Di Roberto)さんに、TuPODについて教えてもらいました。
GAUSS Srlのエンジニアたち。社長のフィリッポ教授(右)と(©GAUSS Srl)
人工衛星の容れ物を作る
まずは、本打ち上げの目的を教えて下さい。
リカード:私たちのミッションは、チューブサットを打ち上げる新しい方法を提供することです。チューブサットの形状は比較的新しく、近年広まってきています。しかしこのサイズの人工衛星を宇宙空間で放出する手段はありませんでした。私たちはTuPODという放出機をデザインしました。キューブサット3つ分(3U)の大きさです。まずはTuPODが、国際宇宙ステーションの「きぼう」にあるキューブサット放出機から打ち出され、約3日後、今度はTuPODが放出機の役割を果たして内部のチューブサットを打ち出します。
TuPODは3Dプリンターで作られ、WindForm©という実績あるプラスチック素材を使っています。
3Dプリンターを使っているそうですが、大量生産を目指しているのですか?
リカード:TuPODは全て3Dプリンターで作っており、お客さんに合わせて製作します。
J-SSODの中にTuPODが、TuPODの中にチューブサットが入ります。なぜ直接、チューブサットを打ち上げないのですか?
リカード:チューブサットをそのまま放出できないからです。ほとんどの打ち上げサービスは要望の多いキューブサットのサイズに対応していて、チューブサットの規格ではオプションがないためです。
JAMSSS(*編者注:有人宇宙システム株式会社は、きぼうでの宇宙実験をサポートする日本の会社です)はキューブサットを放出する機器(J-SSOD)を作っていたので、その放出機を僕たちのTuPODに組み込むのは簡単でした。TuPOD はJ-SSODの中で、一つの物体として振る舞います。
(写真B)TuPODにぴったりと装着されるチューブサットたち
上の写真Aでは、右側のチューブサットの頭に4本の金色の線が見えます。これは何ですか? 写真Bでは折り曲げているようですが、折ってもよいのですか?
リカード:その線はTancredo-I (A.K.A Ubatubasat)のUHFアンテナ(*編者注:地上デジタル放送の受信でも用いられるアンテナ)です。TuPODに入れる時、折れるようにデザインしてあります。普段使う巻尺と同じ、スチール製です。
次に、TuPODに入った二つの衛星について教えて下さい。まず、Tancredo-Iについて。これは、ブラジルの小中学生がつくったものですね。ブラジルでは大学のエンジニア学部に18万人もの枠があるのに、実際に卒業するのは3万人ほど。そこで科学に強いエンジニアを育てるために、人工衛星作りを授業で行っているとのこと。この衛星の打ち上げ目的は何でしょうか?
リカード:教育目的です。ブラジル国立宇宙研究所(INPE)とUbatuba市のTancredo小学校の協力で、子どもたちに自作の衛星をつくってもらう取り組みです。
次にOSNSat (Open Space Network Satellite)に関して、打ち上げ目的は何ですか?
リカード:Open Space Network技術のデモンストレーションです。それ以上はお伝えできません。
打ち上げを種子島から行おうと思ったのはなぜですか?
リカード:JAMSSと、国際宇宙ステーションから人工衛星を放出する契約を結んでいるからです。
人工衛星は今JAXAの手にわたり、ロケットの打ち上げを待つばかりです。今後の夢を教えて下さい。
リカード:私たちの夢を達成難易度順に述べると、次回打ち上げるUniSat-7で素晴らしい写真を撮ること、二つの人工衛星の軌道上での結合(ランデブー)、そして月面着陸です。
キューブサット放出で先頭を行く日本
現在、キューブサットの放出需要は増えています。社団法人航空宇宙工業会によると、2013年頃からキューブサットの利用が増えています。それまではたかだか30基ほどだった打ち上げが、13年には約90基、14年には135基も行われました。背景には打ち上げ手段を持たない途上国での利用など、参入者が増えたことがあります。
これを受けてこうのとりでは、キューブサットの放出機会を広げるために、従来の6U(キューブサット6個分)の容量を倍増して12Uまで搭載できるようにしました。よって今回、1~3Uのサイズのキューブサットを7基も搭載できることになりました。
本打ち上げから、放出機J-SSODが拡張された(©JAXA)
日本は、国際宇宙ステーションにきぼうという実験棟を持っています。実は、キューブサットを放出できるのは、国際宇宙ステーション内ではここしかありません。これまで米国、ベトナム、ペルー、リトアニアなどの計147基もの超小型衛星が放出されてきました。
国際宇宙ステーション内での放出が唯一できること、そしてキューブサットの打ち上げ需要拡大からきぼうの役割はますます重要になっています。J-SSOD(人工衛星を放出する機械)を使ってさらに多くのキューブサットを放出するため、きぼうでは2019年までに48Uまで放出能力を増やすことを計画しているそうです。キューブサットの打ち上げ国にとって、日本の技術はますます重宝されてくるでしょう。
次の記事は、国産のバネ製造機を作っている中島田鉄工所です。人工衛星事業に挑戦した理由は? 語って頂きました。
東成樹